英語の発音を良くするために大切なこと

~豊田章夫さんの英語から学ぶ「伝わる話し方」~

英語学習において「発音を良くしたい」という希望はとても多く聞かれます。しかし、この「発音を良くする」という表現の中身を具体的に考えると、大きく二つの方向性があります。

ひとつは「ネイティブそっくりの発音を目指す」という方向です。母音や子音の細部を磨き、リンキングやイントネーションを徹底的に練習するスタイルです。もうひとつは「聞き手にとって明瞭で、心に響く英語を話す」ことを目指す方向です。

今回は後者に注目し、特にトヨタ自動車元社長の豊田章夫さんの英語を例に取りながら、「聞きやすく、伝わる英語」をどのように習得できるのかを解説していきます。


豊田章夫さんの英語の特徴

豊田章夫さんの英語の最大の特徴は、**「抑揚」と「メッセージ性」**です。ネイティブそのものの発音ではなくとも、聞き手にとって理解しやすく、印象に残る話し方をされています。

実際に動画をご覧いただくと分かる通り、豊田さんの英語には音程の高低差が明確にあり、話すスピードにも緩急がつけられています。単調に流れるのではなく、ところどころで音程を上げたり、急にゆっくり発音したりすることで、聞き手に「大事なポイントが来た」と意識させる工夫が見て取れます。

では、この抑揚はどんな基準で付けられているのでしょうか。大きく分けると以下の二つです。

  • 文型に基づく抑揚
  • 強調したい語彙に基づく抑揚

文型に基づく抑揚

英語は文型が明瞭であり、話し言葉においても文節の切れ目がリズムとして現れます。特に副詞節や接続詞の後、長い主語の終わりなどでは、音程を少し上げたりスピードを変えたりして「文章はまだ続きますよ」という合図を与えます。

例えばスピーチ中の次の文を考えてみましょう(開始後7秒あたり)。

And of course, I wouldn’t be doing my job if I didn’t try to tempt you with a brand new Supra.

日本語にすると、
「もちろん、もし皆さんを新しいスープラで誘惑しようとしなければ、私は自分の仕事を果たしていないことになるでしょう。」

この文の中で、“course” や “job” のように文型の切れ目に近い部分で抑揚が変わり、聞き手は「まだ続きがあるな」と理解できます。これが「文型に基づく抑揚」です。


強調したい語彙に基づく抑揚

もうひとつの基準は、話し手が特に伝えたい語句です。

先ほどの例文では、“of course”, “wouldn’t”, “didn’t”, “tempt” や “brand new Supra” がその部分に当たります。豊田さんはこれらを声を高めにしたり、ゆっくり発音したりすることで、聞き手に強い印象を与えています。

ここで大切なのは、どこを強調するかは「文法的な正解」に従うのではなく、話し手の想いに左右されるという点です。つまり、同じ文章でも人によって抑揚のつけ方は変わります。


「発音が良い」とは何か

一般的に「発音が良い」と言われると、ネイティブのような音に近づくことを連想しがちです。しかし実際に聞きやすい英語は、必ずしもそれだけではありません。

むしろ大切なのは、文型のリズムを踏まえ、伝えたいメッセージを際立たせることです。発音そのものが多少日本人らしくても、抑揚とメッセージ性が備わっていれば、十分に「良い発音」と言えるのです。


練習問題で抑揚を体感する

では、実際に抑揚を意識した練習をしてみましょう。以下に2つの例文を用意しました。

セット1

English:
If you really want to achieve your dream, you must not give up, even when things get difficult.

Japanese:
「もし本当に夢をかなえたいのなら、物事が困難になっても決してあきらめてはいけません。」

抑揚ポイント:

  • “really” と “achieve your dream” を強めに。また “dream” は副詞節の最後の語なので音程を上げる。
  • “you must not give up” は声を大きめに。特に、”must” や “not” は音程を上げます
  • “even” は協調の語なので音程を上げる。
  • “when things get difficult” はスピードを落として余韻を持たせる。

セット2

English:
Success does not come overnight, but it will surely come if you keep moving forward.

Japanese:
「成功は一夜にして訪れるものではありません。しかし、前に進み続けるなら必ず訪れるのです。」

抑揚ポイント:

  • “Success” はメッセージ性が高いので、高めの声でスタート。
  • “does not come overnight” の “not” を強調。
  • “but it will surely come” の “surely” をゆっくり強めに。
  • “if you keep moving forward” は最重要部分なので、落ち着いた調子でゆっくり明瞭に述べる。

ネイティブそっくりを目指す場合との違い

ここで一度整理しておきましょう。もちろん「ネイティブそっくりの発音」を目指すことも立派な目標です。発音記号の習得、母音・子音の再現、リンキングの習慣化など、細部まで追求する練習法です。

一方、豊田章夫さんのような発音を目指す場合は、方向性が異なります。求められるのは音の完全再現ではなく、聞き手にとって分かりやすく、メッセージが伝わる話し方です。これは非ネイティブだからこそ意識的に取り入れられる強みとも言えるでしょう。


verdeのサポートについて

英語学習を進める上で「発音」や「抑揚」は一人で練習するのが難しい分野です。自分では強調しているつもりでも、録音して聞き返すと単調に聞こえることもあります。

そこで verde では、聞き取りやすい英語や抑揚のつけ方についてアドバイスを行っています。実際の音読練習や発声の工夫についても個別にサポートしており、無料体験も実施しています。

「もっと伝わる英語を話したい」「自分の発音を客観的にチェックしてほしい」と感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。


まとめ

「発音を良くしたい」と考えるとき、まずは自分が目指すゴールを明確にすることが大切です。

  • ネイティブそっくりの発音を追求するのか
  • 豊田章夫さんのように、聞き手に届く発音を目指すのか

もし後者を目指すなら、鍵となるのは抑揚メッセージ性です。文型を意識した区切りと、強調すべき語彙の浮き彫り。その積み重ねによって、聞きやすく心に響く英語が生まれます。

「良い発音」とは、必ずしもネイティブの音を完璧に真似することではありません。大切なのは、話し手の想いを込め、聞き手に伝わる形で言葉を届けること。その点で、豊田章夫さんの英語は私たちに多くの学びを与えてくれています。

Verified by MonsterInsights