はじめに
第二言語習得理論が注目を集め、verde含め採用している英語コーチングが増えてきました。その魅力の一つは何と言っても日本人の一般的な英語学習で抜け落ちてしまっているトレーニングプロセスを補えること。
その中でも特に注目を浴びている理論の一つが「インプット仮説」。「インプット仮説」は南カリフォルニア大学のスティーヴン・クラッシェン名誉教授がかつて提唱した第二言語習得方法の一つで、彼が提唱した「自然習得順序仮説」、「モニター仮説」など合計5つの仮説の、中核的仮説となっています。
私たちの英語学習において「インプット仮説」が具体的に何をどんな風に補えるのか、見て行きましょう。
「インプット仮説」とは
「言語習得は、母語も外国語も言語内容を理解することによってのみおこる」というスティーヴン・クラッシェンの主張です。クラッシェンは、人々が母国語を習得する過程で、話し言葉をまるでシャワーのように大量浴びてきたこと(赤ちゃんが親からしきりにそのレベルに合った母国語を積極的に集中的に与えられ続けている状態)に言語習得上の大きな意味があると気づきます。以下は白井 恭弘さんの『 外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か』からの関係個所の抜粋で、インプットのみで、会話練習皆無の状態からいかに突然正確に長い文章を話し出すかについて例を挙げています。
幼児の母語習得について、なかなか話し始めなかったのに、話し始めたら完全な正しい文を話したので驚いた、という子どものケースが多数報告されています。ふつう幼児は、片言で話しながら試行錯誤を繰り返して、徐々に長い文を発話するようになります。だから、なかなか話し始めない子どもがいると、まわりの大人は心配になります(実際そのような子どもの中には言語が遅れる子どももいます)。ところがある日突然、大人のような完全な文を話し始めるケースがじつはかなりあるのです。(中略)このような事例から考えると、言語習得そのものにとっては、話すことは必要条件ではないと言えるでしょう。今あげた二例は母語習得の場合ですが、第二言語習得でも似たようなケースは多く議論されています。親の転勤で一緒に海外に行った子どもは、最初は、ずっと黙っていることが多く、そしてある時、突然話し始めるケースがずいぶんあります。この、ずっと黙っている期間を「沈黙期(silent period)」と言います。
白井 恭弘. 外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か (岩波新書) (p.104). 株式会社 岩波書店より
「インプット仮説」の条件は理解可能な内容であること
インプットが大切なので朝から晩まで洋楽を聞く、映画を再生し続けるなどが英語力の向上に効果的と思う人もいるかもしれません。結論から言うと、これには実は効果がありません。意味が分からない英語を繰り返し聞くのではインプットにはならないのです。
クラッシェンの言う理解可能な英語とは、学習者が英語を聞いたり読んだりする際に、辞書に頼らなくてもなんとか理解できる程度のものを指しています。所々知らない単語があっても、文脈から概要が取れればOKです。
内容に興味が持てる事も、「理解可能な内容」に近づけるための一つの良い方法と考える事ができます。
クラッシェンは、学習者の現在の英語力よりも若干高いレベルを理想レベルとし、「i+1」と表現しています。
このような理想的レベルや内容なインプットを大量に浴びることで、実質的な英語の習得が起こるというのがインプット仮説です。
「インプット仮説」の効果が分かる、学習タイプ毎の各技能の成果早見表
下表は、①単語暗記、②文章暗記、③リスニング、④読解、⑤読解+リスニングの5つのインプットが、アウトプット力、リスニング力、読解力にどんな成果をもたらすか表した表です。流れ/展開を含む内容(細切れでない)のインプットである③④⑤で成果が現れ、⑤の読解+リスニングで、アウトプット力、リスニング力、読解力のすべてにスムーズに効果をもたらす事が分かります。
どんな風に勉強したか | ➡ 成果の出方 | 成果 (アウトプット力) | 成果 (リスニング力) | 成果 (読解力) | まとめ | |
① | 単語、文法の暗記(細切れの暗記) | ➡ | 単語のつなぎ合わせのみ可能 | 聞き取れない | ぎこちないが何とか読み進められる | 3技能*すべてで実用できない |
② | 文章の暗記(細切れの暗記) | ➡ | 文章単位のみ対応可能 | 聞き取れるが展開についていけない | 知っている文章に近ければ読める | 3技能*すべてで実用が難しい |
③ | ネイティブの朗読によるリスニング(展開/流れのある内容のインプット) | ➡ | 話題単位で対応可能 | 聞き取り、展開にもついていける | ある程度インプットの量をこなしていればスムーズに読める文章が増えてくる | バランスに注意するれば3技能*で実用可能 |
④ | 読解(展開/流れのある内容のインプット) | ➡ | 話題単位で対応可能 | 速すぎてついていけない | スムーズに読める | バランスに注意するれば3技能*で実用可能 |
⑤ | 読解+ネイティブ音声を利用したリスニング(展開/流れのある内容のインプット) | ➡ | 話題単位で対応可能 | 聞き取り、展開にもついていける | スムーズに読める | 3技能*で実用可能 |
*3技能はここではアウトプット力、リスニング力、読解力を指します。
**③④⑤は同じ内容をある程度繰り返しトレーニングしている事(’大量のシャワー’に相当)が前提です。
上記⑤の読解については、先に述べたように、「理解可能な内容」であり、更に学習者の興味に合った題材を選択する事が大きなポイントの一つとなります。
まとめ
中学英語を暗記ではなく実践できるように訓練するには教員や授業時間を大幅に増やさなければならないため現実的でなく、また多くの日本の大学、企業は英検やTOEICを英語力の基準としているため、我々学習者はどうしても試験対策の単語、文法の暗記作業というスパイラルから抜け出る事ができません。しかし英検一級を取ってもTOEIC990点を取っても、日常英会話、ビジネス英会話に対応できない日本人は実は沢山いるのです。
金輪際勉強の仕方を丸っきり変えようという事ではありません。むしろそんな事をする必要はありません。ただ数か月の間でも、これまでごっそり抜け落ちていたインプットのシャワーを勉強に取り入れる事で(上表⑤)必要な足場が出来上がり、私たちが得意な暗記も効果的にその足場に組み上がり、真っ直ぐと実用に向かっていくのではないかとverdeは考え、コーチングでもご紹介しています。