― 第二言語習得理論「認知プロセス4段階」から学ぶ ―
英語を学んでも「覚えたのに話せない」「リスニングになると全然聞き取れない」と感じたことはないでしょうか。
多くの日本人学習者がこの壁にぶつかるのは、実は学習プロセスの中で「内在化」という大事な段階を飛ばしてしまっているからです。
この記事では、第二言語習得理論の中でも特に実践力向上に大きな影響を与える「内在化」に焦点を当て、できるだけわかりやすく解説します。
英語の勉強を「知識」から「自分の言葉」に変えていくためのヒントとしてお読みください。
そもそも「内在化」とはどんな意味か?
「内在化(internalization)」という言葉は、もともと心理学の用語として使われてきました。
コトバンクでは次のように説明されています。
心ないしパーソナリティの内部に、習慣や考え方、社会の規範や価値などを取り入れて自己のものとすること。十分に内在化されたものは、もはや他から受け入れたものとは感じられなくなる。
つまり「外から与えられたものが、自分の中で自然に機能するようになること」です。
たとえば子どもが「挨拶をするのは良いことだ」と親から教わり、やがて何も考えずに「おはようございます」と言えるようになる。
このとき、挨拶という行動はすでに「内在化」されています。
言語学における「内在化」も、この考え方とよく似ています。
単語や文法の知識を「理解した」だけでは、まだ頭の外側にある状態。
それが自分の経験や感情や使う場面と結びつき、自然に口から出てくるようになる。
その過程こそが「内在化」です。
第二言語習得理論 ― 認知プロセス4段階
「内在化」は、アメリカ・ミシガン州立大学の名誉教授で第二言語習得(SLA)の研究者として知られる Susan M. Gass の提唱した「認知プロセスモデル」の中に位置づけられています。
この理論では、学習者がインプット(聞いたり読んだりした情報)をアウトプット(話す・書く)できるようになるまでに、次の4つの段階を踏むとされています。
- 気づき(Noticing)
- 理解(Comprehension)
- 内在化(Intake)
- 統合(Integration / 自動化)
それぞれ順を追って見ていきましょう。
気づき(Noticing)
最初の段階は「知る」ことです。
単語帳で「late=遅い」と覚えたり、英文を読んで新しい表現に出会ったりする段階。
まだ使えるわけではなく、知識として頭に入っているだけの状態です。
例:
「‘late’、遅いって意味だな。」
理解(Comprehension)
次は、知った単語や表現の「使い方」を理解する段階です。
英会話本で “be late” や “get late” のような使い方を学ぶフェーズにあたります。
例:
「‘be late’ は遅刻する、‘it’s getting late’ は遅くなってきている、みたいに使うんだな。」
内在化(Intake)
ここからが学習の転換点です。
内在化とは、そのフレーズを自分の生活や感情の中に落とし込む作業です。
たとえば次のように考えてみましょう。
例:
「僕がよく言う“今日は遅くなるよ”は I’ll be home late.」
「遅刻してごめんね、は Sorry I’m late. って言うんだな。」
このとき、単語やフレーズが「自分の現実の文脈」とつながります。
つまり、“late” が「ただの単語」から「自分の生活で使う言葉」に変わるのです。
ここで初めて、英語が「自分の言葉」になり始めます。
統合(Integration)/自動化(Automaticity)
最後は、練習を通じてそのフレーズが自動的に出てくるようにする段階です。
音読やシャドーイング、実際の会話で繰り返すことによって、脳内で処理がスムーズになります。
例:
「I’ll be home late. I’ll be home late.」と場面をイメージしながら何度も練習して、無意識で口から出るようにする。
この段階まで進むと、いちいち日本語を介さずに英語が出てくるようになります。
なぜ「内在化」がこれほど重要なのか?
ここまで見てきた4段階のうち、多くの日本人学習者がつまずくのが、まさに「内在化」です。
学校教育では「気づき(単語・文法を知る)」と「理解(例文を覚える)」までは丁寧に扱われますが、その後の「内在化」や「自動化」が十分に行われないまま、新しい知識をどんどん積み上げてしまう傾向があります。
結果として、
- 単語や文法の知識はあるのに話せない
- 文章を読めるのに聞き取れない
という状態が生まれます。
これはまるで、「楽譜は読めるけれど楽器は弾けない」状態です。
知識が行動や実践に結びついていないのです。
他にも、「内在化」についての学術的な説明文――
「内在化とは中間言語仮説検証を経た帰納的学習システムによって長期記憶化を促す……」
と読んでも、「何か言語学の難しい話をしているな」くらいしか頭に入ってこないでしょう。
それはこの表現が、あなたの中でまだ内在化されていないからです。
ところが、第二言語習得の専門家にとっては、この文を聞いた瞬間に理論の構造がイメージできる。
つまり、彼らの中ではその概念が完全に内在化されているのです。
「内在化」を飛ばした学習の危険性
「気づき」と「理解」だけでいきなりアウトプットに挑戦すると、相手が首をかしげるような不自然な英語を話してしまったり、結局覚えた直訳語のイメージを一つ一つ場面毎に学び直さなければならなくなるなど、せっかくの勉強の苦労がむしろ学習や英語利用の脚を引っ張ってしまうことになりかねません。
また、「理解」だけで「自動化」を試みる人も少なくありません。
暗記した対訳はスラスラ言えるのに、自分の話になると全く言葉が出てこない――
これも「内在化」を飛ばしている典型的な例です。
実際、筆者自身も長年「内在化」を飛ばして勉強し、伸び悩みに苦しんだ経験があります。
その後「内在化」を意識して学び直すことで、ようやく英語が「自分の言葉」として出てくるようになりました。
「内在化」を育てる実践法
「内在化」を進めるには、市販教材を眺めるだけでは足りません。
なぜなら、自分の生活や興味と結びつかない表現は、定着しにくいからです。
たとえば次のような手順が効果的です。
- 自分の身の回りのテーマを日本語で整理する
例:「今ハマっている音楽」「最近の仕事の悩み」「好きな映画」など。 - その内容を英語にしてみる(AIや講師の力を借りてもOK)
例:最近、Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)にハマっています。彼らの曲「Blue Bird」は本当に心に響きます。「I’ve been into Ms. Green Apple lately. Their song “Blue Bird” really speaks to me.」 - その英文ををシャドウイングする、フレーズをリスト化して暗記する、復文するなど
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こうして自分の実生活と結びついた英語を繰り返すことで、表現が「自分の言葉」として定着していきます。
つまり「内在化」が進むのです。
内在化を大事にすれば、学習の労力も減る?
興味深いのは、内在化が深まるほど、次の段階の「自動化」に必要な練習量が減るという点です。
これは第二言語習得の別理論「インプット仮説」とも関係しています。
脳の中で「使える言葉」としてしっかり定着していれば、多少の練習で自然に口から出てくるようになるのです。
つまり、「内在化」を極めれば、労力を減らしても英語が話せるようになるということです。
まとめ ― 学びを「自分の中」に取り戻す
英語学習における「内在化」は、単なる理論用語ではありません。
それは、私たちが知識を「自分の言葉」に変えていくためのプロセスです。
- 単語や文法を「知る」だけで終わらせず、
- 自分の体験や感情と結びつけ、
- 実際に使う中で「自分の中に落とし込む」。
この流れを意識するだけで、英語学習の質は劇的に変わります。
そして、③「内在化」と④「自動化」を意識的に取り入れることで、リスニングもスピーキングも飛躍的に伸びるはずです。
英検やTOEICなどの試験を目指す場合でも、「内在化」を無視した勉強法は頭打ちや停滞を招きます。
一方で、たとえ忙しい社会人でも、正しい順序で、効率よく時間を使えば、確実に成果を出すことができるのです。
verde 英語コーチングより
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