ほとんどの日本人は、「Compromise=妥協する」と覚えますが、ネイティブが同様によく使うのが、
- His reputation has been compromised.(彼の名声は傷つけられた)
- The data has been compromised.(データが漏洩した(損なわれた))
のように、(しばしば受動態で)「損なわれる」「危険に晒される」という訳が当てられるものです。
「刑事モノ」などではむしろ「損なわれる」の用法の方がやや頻繁に聞くかもと言った印象です。
しかしなぜ同じ compromise という一つの単語が、
「妥協する」と「傷つける」という一見正反対の意味を持っているのでしょうか。
この記事では、「妥協する」と「傷つける」両方の用例や、
歴史から広義を捉える事で、二つの異なる和訳語に混乱しない事を目指します。
Compromise は経緯が複雑で何度も何度も辞書を引きがちな単語です。
ここで最後にして、使い分けて行って頂ければ幸いです。
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Compromise「妥協する」「損なわれる」それぞれの用例
まず、辞書的な定義を整理してみましょう。
Merriam-Webster Dictionary では、やはり compromise の動詞として以下の二つの大きな意味を挙げています。
① 妥協する(to make a mutual agreement or concession)
- They compromised on the price.(価格で妥協した)
- To maintain a good relationship, you sometimes need to compromise.(良い関係を続けるには、時には妥協することも必要だ。)
これは、双方が譲り合って合意に至るという比較的ポジティブな意味です。
compromise on 目的語 の形などで使います。
二番目の例の様に目的語なしで比較的漠然と「多少妥協しないとね」のようなニュアンスでも使われます
② 傷つける・危険に晒す(to expose to risk or harm)
- The security system was compromised.(セキュリティシステムが侵害された)
- The information leak compromised national security.(その漏洩によって国家安全保障が損なわれた。)
こちらは、受動態で「損なわれた、傷つけられたもの」が主語になる使い方をよく聞きますが、能動態でも利用できます。
語源から見る Compromise のルーツ
com-(共に)+ promittere(約束する、送る)= 「共に約束する」
語源辞典 Etymonline によると、compromise はラテン語 compromittere に由来します。
この単語は
- com-(共に)
- promittere(約束する、送る)
の組み合わせで、もともとは「共に約束する」「仲裁者の判断を受け入れることを誓う」という意味でした。
つまり、出発点では「お互いが一歩ずつ歩み寄る」という中立的な、むしろ建設的なイメージを持っていたのです。
そこから、「自分の主張を100%通さずに折り合いをつける」という現代の「妥協する」へと自然に意味が広がったのだそうです。
「損なわれる」「危険に晒す」はどう生まれたか
言葉の意味は時代とともに変わります。
Utah大学の法学サイトによると、compromise の意味は以下のような段階を経て変化していきました。
第一段階(古代〜中世)「共に誓う」→ポジティブ
ラテン語 compromissus(compromittere の過去分詞形)は、「仲裁者の決定を受け入れると約束する」ことを意味しました。
つまり「争いをおさめるための相互の約束」です。ここではまだ肯定的な意味しかありません。
第二段階(1500年代)「交渉の上歩み寄る」→ポジティブ(存続)
やがて「仲裁者の存在」が薄れ、単に「交渉を重ねてお互いに譲り合う」行為全体を指すようになります。
この段階で現在の「妥協する(concessionを交わす)」という意味が定着します。
第三段階(1600〜1700年代)「一部失いつつ譲歩する」→ややネガティブ(存続)
しかし、譲歩には常に「何かを失う」「理想を少し曲げる」という側面がつきまといます。
そのため、17世紀後半には「不本意な妥協によって、自分の立場や名誉が損なわれる」
というネガティブなニュアンスが生まれました。
第四段階(現代)「傷つける」「損なわれる」→完全にネガティブ(存続)
そして現代、「Reputation(名声)、Data(データ)、System(システム)が、Compromised(損なわれる)」
という締結事の有無にかかわらず、ネガティブな「損なわれる」の部分だけが生き残った用法が、
The security system was compromised.(セキュリティシステムが侵害された)
となったわけです。
「妥協する」「傷つける」の二つの用法が2大用法として残っているという事になります。
出発点(語源)が「誓う」であるだけに、語源を調べてもなお学習者を戸惑わせる一語と言えそうです。
「妥協」と「損なう」はつながっている
一見まったく違う意味に見えますが、両者の根底には共通点があります。
それは「完全な状態を保てなくなる」という点です。
- 妥協する:理想や主張を100%保てない
- 損なう・危険に晒す:機能や信用を100%保てない
どちらも「完全さが欠ける」「守りきれない」の意味を維持しています。
したがって、「compromise=完全性を少し手放す」と捉えると、どちらにも柔軟に対応しやすいかもしれません。
まとめ ― 言葉は変化し続ける
Compromise は、もともと「共に約束する」という協調の言葉でした。
しかし時代を経て、「譲歩による損失」という側面が強調され、
さらに現代になり「傷つける」「危険に晒す」というネガティブな面だけを残した新たな用法を持つようになりました。
つまり、compromise の歴史は、
「建設的な歩み寄り」から「脆さや損失」への意味変化の物語でもあります。
語源(接頭辞、語根、接尾辞)は便利ですが、万能ではない、という事でもありますね。
